兵庫県立美術館では2010年より毎年「注目作家紹介プログラム(チャンネル)」を開催してきました。10回目となる2019年度の「チャンネル」では、岡山県出身で広島を拠点として活動する入江早耶(1983~)をご紹介します。入江はこれまで、長靴、鉛筆や化粧品などの日常的な素材を用いて作品を制作するなかで、一貫して、変わらないものの存在を問い続けてきました。消しゴムを用いたシリーズでは、掛軸や写真などのイメージを消し、消し去った観音や小鳥などを小さな立体物として消しカスで制作しています。
本展では、兵庫の「菟原処女(うないおとめ)の伝説」をテーマとして、新作を発表します。二人の男性に求婚された娘はいずれか一人を選ぶことができず、自ら命を絶ち、彼らも娘の後を追いました。悲しい伝説は、作家のユニークな手法によって、新しい視点で現代に生まれ変わります。同じ伝説から着想を得た能「求塚」では、自らのために失われた命によって、娘は永く苦しむこととなりますが、新作では、乙女の純真さに焦点が当てられています。入江の作り出す祭壇によって、娘の長い苦悩は昇華されることでしょう。美術館の様々な場所に展示された作品を巡り、愛のラビリンスを堪能いただければ幸いです。
※「注目作家紹介プログラムチャンネル」は、担当学芸員がいま最も注目すべきと考える作家を個展形式で紹介してきました。美術館を訪れる人と同時代を生きる美術作家が、さまざまな「チャンネル」を通じ出会う機会となることを目指しています。