戦後新たな日本画表現をめざし、またインドに魅せられて独自の画風を築いた女性日本画家、秋野不矩の展覧会を開催します。不矩は1908年、静岡県磐田郡二俣町(現・浜松市天竜区)に生まれました。東京の石井林響、京都の西山翠嶂に師事し、家族や庶民の生活に温かな目を向けた作品を官展に出品ののち、戦後1948年には新しい時代の日本画をめざして創造美術(現・創画会)の結成に参加。当時まれであった男性のヌードをテーマに造形的な人物表現に取り組み、上村松園賞を受賞するなど注目を集めました。さらに1962年に大学の客員教授としてインドに滞在してからはダイナミックなインドの大地や慎ましく生きる人物をテーマに独自の画風を築きました。生涯で14回インドを旅した不矩の作品には異国的なインドの姿が捉えられている一方、雄大な大地に溶けこむ画家の温かいまなざしが表れています。また、ざらざらとした日本画の顔料と、常に何物にもとらわれることのない自由な画境によって新たな現代日本画の境地が展開しています。戦後は京都市立美術専門学校(のち京都市立美術大学)で教鞭をとり後進の育成に尽力したほか、絵本原画にも才能を発揮しました。70年余りに及ぶたゆまぬ画業によって、1999年には文化勲章を受章するなどの活躍ののち、2001年に93年の生涯を閉じました。
本展は関東地方では11年ぶりとなる不矩の回顧展であり、初期から晩年までの代表作を中心に、そのおおらかで生命感あふれる画業の高みを紹介します。