現代絵画作家久野真のこと
現代絵画を、名古屋を拠点として、先進的に制作し世界的に評価された久野真が没してから20年になる。戦後直ぐに、私塾で絵画の指導を受けてから、50年の交流を通じて、多くのことを学ぶことができた。芸術と宗教は、人間の生き方について、大切な方向を授けてくれる。久野真の生きた20世紀は、2つの世界大戦もあり、激しい時代変化の時期であった。科学においても、芸術においても、思想的にも、具象から抽象考察への、黎明期から展開期であった。本質を掘り下げ、より普遍的なものを求めるとき、抽象考察と表現が生まれる。
20世紀前半に、ヨーロッパで試みられた抽象絵画が、後半、戦後、アメリカにおいて、抽象表現、アンフォルメルの世界が展開され、現在に繋がっている。戦後出会った久野真の30歳前後は、まさに、そうした激動の芸術の時代であった。日本において、先駆けて、具象から抽象絵画へと制作を試み、1950年代には、石こうを使ったコラージュ的作品、1960年代には、鉄鋼、ステンレスを用いた直線構成の無機的抽象表現、その後、より人間性を深めた、暖かみを感じさせる曲線構成の有機的表現が示されてきた。戦後の変化の激しい社会のなかで、人々に、個性的に強く訴えてきた。これからの高度情報化社会に、芸術面から、多くの、指針を与え続けてくれると思う。 宮崎保光(愛知工科大学名誉教授)