山口啓介は、1980年代後半に方舟を描く大型の銅版画で注目を浴びて以来、巨大なアクリル画や立体作品にも表現手法を広げながら、自然と生命の歴史を幻視する壮大なイメージ世界を紡いできました。それは核汚染のような地球の深刻な環境破壊など、現代社会が直面する問題の数々を、美しく優しい色と形を通して、幾重にも重なるイメージの叙事詩として語るものでもあります。
現在は、主に兵庫県で制作をしていますが、東京の武蔵野美術大学で学んだ山口は、福生市にもアトリエを構え、初期の制作拠点としていました。身近な武蔵野の自然や米軍基地の存在など多摩地区の文化的風土からも影響を受けています。創作と並行して取り組んでいる、植物の花や葉などをカセットケースに封入する「カセットプラント」のワークショップも、1999年に府中市で行ったのが最初でした。
花や種子、心臓など自然界にある魅惑的なイメージに託して、神話的、宗教的ともいえる、啓示に満ちた人類の物語を描き続ける山口の絵画は、時代の変化に機敏に感応しながら、変幻自在に進化をとげています。今回の絵画を中心とした公開制作では、描くという行為を通して、作家の心に生まれるイメージがどのように展開していくのか、その創作の秘密に迫ります。