公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第260回として、「どこでもない場所 程塚敏明展」を開催いたします。
虫や鯨などの生き物が取り込まれた不思議な建物、足場の組まれた飛行機の背後に広がる広々とした空、どうやって作られたのか何のためにあるのかわからない巨大な建造物がそびえ建つ大地。日本画家・程塚敏明さんの描く世界は、観る者からそれぞれの物語を引き出します。
程塚さんは子供の頃から絵を描いたり物作りをしたりして育ち、筑波大学に進んで本格的に日本画を学び始めました。自然の中にある人工的なものに惹かれて風景画を描きながら、次第に写生した建物を画面の中で古びさせ、さらに虫と組み合わせて架空の世界を構築するようになります。映画などの影響を受けたこの頃の作品は、舞台装置を思わせるシンメトリックな構図で描いていましたが、その後、建物の「向こう側の空間」を意識し始めた程塚さんは舞台を空へと移します。
空が主役になってから程塚さんは「裏彩色」を取り入れるようになりました。絹や薄い和紙の裏から彩色を施すこの技法は、古くから仏画などに用いられていました。程塚さんは厚さのある麻紙と呼ばれる和紙の裏側から染料系の顔料で着色し、その際に通常はにじみ止めとして全体に塗るドーサを部分的に用いて着色する作業を繰り返すことによって、複雑で軽やかな雲の描写を実現しています。
空を主体にした作品舞台は近年広い大地に移り、行ったことがないのに懐かしい、夢に現れるような「どこでもない場所」へと誘い込むのです。
今展では程塚さんの創画展出品作を中心に、優品17点を二期に分けて展示します。