熊谷守一(1880-1977)は、明治から昭和の時代を生き、世代を超えて多くの人に愛されている画家です。
岐阜県恵那郡付知村、現在の中津川市付知町に生まれた守一は、物心がつく頃まで山深い自然豊かな環境の中で育ちました。子供の頃から、絵を描くことが好きだった彼は、東京美術学校(現 東京藝術大学)に進み、西洋画科のアカデミックな指導を受けます。29歳のとき、文部省美術展覧会で褒状を受けるなど、画力を確かなものにし、画壇からも高く評価されました。
平明かつ鮮やかな色面による守一の作品は、一目見てその特徴を掴むことができ、「モリカズ様式」と名付けられました。今では、「熊谷守一(クマガイモリカズ)」と聞くと人々がよく思い浮かべる様式として知られていますが、実は、彼が70歳を過ぎて開花させた様式です。青年期より50歳頃まで続いた荒い筆遣いの作風は、対象の形態をシンプルな輪郭線として塗り残す作風へと向かいます。花、猫、鳥、虫などの「いのち」ある小さきものを真摯に見つめて描かれた守一の作品は、愛らしさを讃え、多くの人を魅了することとなりました。
本展では、初期から晩年まで守一の画業の全貌を辿るとともに、日本画や書、素描も紹介し、その豊かな作品世界に迫ります。約160点の作品を通して、他に類をみない境地に達した画家の魅力を感じていただける貴重な機会となるでしょう。