鴉(からす)や鳩をモチーフとした「道標」シリーズや「犬の唄」と題された女性立像などで知られ、戦後日本の具象彫刻界をけん引してきた彫刻家・柳原義達(1910-2004)。三重県立美術館では、作家本人より主要作品と関連資料等の寄贈を受けたことをきっかけとして、2003年に柳原義達記念館を開設し、以来、作品資料等を常時公開して柳原の顕彰に努めてまいりました。
このたびは作家遺族の援助により、次代を担う美術家を発信する「Y2project」として、彫刻家・中谷ミチコ(1981-)の個展を柳原義達記念館において開催します。中谷は国内の美術大学を卒業後、ドイツで7年間学び、帰国後は三重県を拠点に国内外で作品を発表し、精力的に活動を続けています。
石膏型の凹部に樹脂を流し、表面をフラットに仕上げたレリーフ作品は、あたかも立体と平面の境界へと潜り込んでいくような感覚を覚えさせ、「もの」の在り方や見え方への問いを投げかけてきます。また、立体作品の制作と並行して描き続けられている無数のドローイングは、作家の幼少期の記憶や脳裏に浮かんだイメージが紙の上に表され、見る側の記憶をも呼び覚まします。
本展では、中谷が10代の頃に強く影響を受けた柳原義達の作品群と、彼女の近作、そして本展に向けて制作された新作を織り交ぜながら、両者が交差する新たな試みを行います。現代に生きる彫刻家の挑戦にどうぞご期待ください。