日常生活において、われわれは様々な場面で美術作品に接していますが、特別に意識することはあまりありません。ましてや作品収集などは別世界のことと考えがちです。しかし本展で紹介する作品は全て、1960年代後半より一人のサラリーマンがこつこつと集めたもので、有名無名を問わず、コレクター自身の「こころ」に留まった美術作品のコレクションなのです。自身の感覚を信じ、ある意味でそれのみを拠り所として、一般的な市民生活において経済的に許す範囲で収集された作品群は、油彩画、日本画、版画、さらに具象、抽象を問わず幅広いジャンルにわたり、著名作家の初期作品や今までとりあげられる機会のなかった力のある作家の作品が結果として多数含まれることになりました。
所蔵家は、在野にありながら近・現代美術の資料を網羅的に収集し自宅において公開するなど、史料編纂者として、また近年は戦争記録画や藤田嗣治の研究で知られていますが、その美術作品コレクションは今までまとめて公開されることはありませんでした。
本展は、約1000点におよぶ美術作品コレクションのなかから、99作家、134点の作品を紹介することによって、一市民が集めた芸術作品という今まで省みられたことのない観点から近・現代日本文化を問いなおす企画です。
生活の傍らで作品と出会う瞬間に感じる「美」への共感に想いをはせ、さらに一介のサラリーマンが「戦後日本美術」に対してたてた爪痕を感じ取ることで、美術作品を「鑑賞すること」「集めること」に対する先入観がくつがえされるのは必至なのではないでしょうか。