19世紀後半、近代という新しい時代を迎えたヨーロッパでは、都市が急成長を遂げ、人々の生活にも大きな変化が訪れました。その中で、単なる情報伝達手段のレベルを超え、造形的に優れた一つの芸術として発展したメディア―それがポスターです。かつての印刷による広告物は文字が中心になっていましたが、リトグラフ(石版印刷術)の発達によって、色彩豊かに描かれたイメージを容易に複製することが可能となり、視覚的なアピール力を持ったポスターが次々と制作されるようになりました。
ミュシャ、トゥールーズ=ロートレックなど、著名な作り手たちによって彩られたポスター文化は、20世紀に入って、新たな展開を迎えます。様式的にはアール・ヌーヴォーからアール・デコ、さらにフォーヴィスム、キュビスム、シュールレアリスムへと、新たな造形表現の隆盛と歩調を合わせるようにして発展してゆきます。また、20世紀後半は、戦争を挟んで、世界が大きく変わり、ポスター文化にも変化が訪れました。特に、世界の多様化を映し出す鏡のように、ポスター文化そのものが多様化したのです。ウォーホルやホックニーと言った、ポスターそのものを重要な表現手段とするアーティストたちが登場したこともその一つの表れと言えるでしょう。
本展では、新たな芸術として時代を切り拓いてきたポスターというメディアの歴史を、サントリーミュージアム[天保山]の所蔵するコレクションの中から選ばれた名品でたどります。本展を通して、19世紀末から20世紀末へとさまざまなかたちで花開いたポスター芸術の魅力をご堪能いただければ幸いです。