明治以降の日本画独特の領域のひとつに「美人画」があります。江戸時代に庶民の文化が開花するとともに浮世絵として流行した美人絵からの流れであり、以降時代ごとの空気をまといながら変化してきた世界です。
文明開化により新たに流入した洋画の技法を取り入れ、西洋画の女性像に近い作品が明治30年以降には発表されるようになりました。浮世絵に象徴される江戸の生活感情を作品に色濃く残す一方、西洋文学からの影響を思わせるロマンチックな文学性や感傷的な表現に作風の特色が表わされています。明治末から大正期になると社会変動による虚無的、退廃感を帯びた作品も描かれるようになり、時代を彩り、その後個性ある作品が溢れることとなっていきます。
培広庵(ばいこうあん)コレクションは、表現に常に理想美を求め、高尚な上村松園や鏑木清方らの作品から、東京の山川秀峰、大阪の北野恒富らの退廃的な気配を感じる作品まで、明治から昭和にかけての変化をつぶさに眺めることができる日本有数の美人画コレクションです。本展では、これらの作品の魅力を引き立てている日本の伝統美にも着目しながら、近代美人画の逸品約70点を紹介いたします。