本展は当館が陶芸にとどまらず工芸全般に視野をひろげて、いばらきゆかりの工芸品の魅力を紹介するシリーズの第3弾です。いばらきと染織の関わりは古く、県内の三つの神社には養蚕の始まりとされる金色(こんじき)姫の伝説が伝わっています。また、風返稲荷山(かぜかえしいなりやま)古墳(7世紀頃)の副葬品に付着していた貴重な経錦(たてにしき)や麻など、古墳時代の染織も伝わっています。さらに遺跡から出土する糸巻き等の製作の道具や、『常陸国風土記』『延喜式』『万葉集』などの文献資料からは、いばらきが染織品生産の産業の盛んな地であったことがわかります。起源が奈良時代の絹粗布「あしぎぬ」とされるほど古い結城紬は、昭和31年(1956)に国の重要無形文化財、昭和51年(1976)に技術保存会が重要無形文化財保持団体に認定され、平成22年(2010)にはユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。近代に入ると作家として創作活動を行う染織家も登場し、文展・帝展・日展と長く活躍した桜井霞洞(かどう)や、水戸藩士の家系を継ぎ重要無形文化財「友禅」保持者(人間国宝)に認定された中村勝馬から現在活躍中の作家まで、染織の可能性を追求し、独自の表現を発表する作家を多く輩出してきました。さらに明治に入って生産が途絶えた宮城県白石(しろいし)の紙布(しふ)を、いばらきの西ノ内和紙の職人と協力しながら作る紙布作家の作品も展示します。本展では、約80点の染織作品により、時代をこえて受け継がれる技と作品との魅力をご紹介します。