江戸時代中期に黄檗の禅僧によりもたらされた中国の新しい文物や南宗画をはじめとする詩画は、わが国独自の文人画と呼ばれる絵画様式として形成されていきました。なかでも絵画と書には密接な関係があり、書と画は根本的に一致するという「詩書画一致」の思想が与えた影響は大きく、詩と書と画全てに秀でた人物は「詩書画三絶」と呼ばれるなど、この境地に達することは多くの文人墨客たちが目指す理想とされました。明治になり文人画が衰退して以後、それまでの近世絵画が持っていた伝統を継承しながら新しい水墨表現を行う「南画」が発表されるようになりましたが、彼らのなかにもこの精神を受け継いだ作品を制作する画家が多くあらわれました。
本展覧会では、田辺市立美術館・熊野古道なかへち美術館コレクションの中から、この「詩書画一致」の思想に影響を受けた画家たちがそれぞれの時代でおこなった詩書画表現に注目して紹介します。第一部では《近世南画 江戸の文人画》[会場:田辺市立美術館展示室1・2]と題して江戸期の文人画を中心に展示、第二部では《近代南画 凌雲を中心に》[会場:熊野古道なかへち美術館展示室]と題して渡瀬凌雲やその師友の作品を中心に展示します。