19世紀前半、パリ近郊のフォンテーヌブローの森周辺で制作を行った「バルビゾン派」は、光や色彩の効果を生かした自然風景の作品によって、19世紀後半に続く「印象派」の先駆とされており、近代の新しい絵画のあり方を示した重要な動向の一つです。「バルビゾン」とは、画家たちが頻繁に滞在したフォンテーヌブローの森にある村の名前に由来します。
当時、美術教育の主流であった聖書や神話を題材にしたアカデミックな美術制度に不満をもった画家たちが、自然の光の下で見えるままの風景画を描くことに専念するため、1830年頃からパリの都会を出て制作を始めました。ミレー、テオドール・ルソー、ドービニーらが集い、風景画、動物画、農民画などの牧歌的な画題を好んで制作を行いました。バルビゾン派の活動は1870年頃まで続きます。
1860年代、近代化の進むパリにおいて、光に応じて変化する空気の流れや動きを科学的に捉えようとする「印象派」が誕生しつつありましたが、モネ、ルノワールらはフォンテーヌブローの森を訪れバルビゾン派の画家たちと交流し、戸外での自然観察と光への試みを受け継ぎました。ピサロ、シスレーらの印象派の画家たちも好んで戸外での制作を行っています。
本展では、バルビゾン派から印象派までの流れを、主だった作家の作品により、「自然への関心」「バルビゾン派」「写実表現と光の試み」「印象派とその周辺」の4章に分けてご紹介します。出品される作品の中核は、ボルティモア美術館のコレクションの一つであるジョージ・A・ルーカス・コレクションで、半世紀をかけて収集された作品群は、バルビゾン派の評価確立に貢献しています。