【常設展示室1】日 常
日常の中で、見慣れた風景や慣れ親しんだ物に対して、ふと違和感を感じることはないでしょうか。古くから日常生活は風俗画や静物画に描かれてきました。しかし近代以降、美術における「日常」は変容し、そのような既存のジャンルに分類しきれない作品が生まれました。今回の展示では 芸術家がそれぞれの日常をじっと見つめたすえに生み出した作品をご紹介します。
赤瀬川原平は日常に潜む小さな違和感を見逃さなかった芸術家の一人です。そして創り出されたのが《大日本零円札》や「トマソン黙示録」などの作品でした。なかでも「トマソン黙示録」は街中の風景における小さなズレを写し出しています。また、赤瀬川が中西夏之、高松次郎らと結成したハイレッド・センターはそ の短い活動期間にも関わらず、公共の場で多くのパフォーマンスを行い、人々の日常を揺さぶりました。
その一方で、プライベートな空間での日常をモチーフにした作品もあります。塩田千春は人が身につけていた物を題材にしています。《トラウマ/日常》では洋服を用いることで時間の経過や生と死を表現しました。
本展で紹介する作品はありふれた物や風景を題材にしていますが、少し視点を変えてみるだけでそれらは新たな世界を見せてくれます。芸術家たちはそれぞれの角度から日常を捉えなおし、表現しました。ぜひ、彼らの目を通した日常をお楽しみください。
【常設展示室2】Night -潜む世界
これまで漆芸作品では様々な風景が表現されてきました。この度の展示ではそのような風景描写の中でも「夜」を表現した作品を展示します。漆特有の深い黒、その中で輝く月や星、月明かりにぼんやりと照らし出された花々…。一言で「夜」といってもその表現は多彩で、それぞれがひっそりと静まり返った世界を表しています。
磯井正美は多くの作品で夜の風景を描き出しました。《蒟醤 月あかり食籠》もそのうちのひとつです。そこでは漆の夜空に螺鈿で表現された月と星が輝き、下方では光を受けてきらきらと光りさざめく波が表現されています。一方で、音丸耕堂による《彫漆 月之花手箱》は風景をそのまま表現するのではなく、夜の間に花を開く夕顔をモチーフに構成した作品です。彼は彫漆の技法を巧みに用いることで立体感を出し、月明かりに照らし出された夕顔の花を表現しています。
また、夜の気配を感じさせる夕暮れ時や夜明けも多くの作品に取り上げられてきました。太田儔は《籃胎蒟醤 瀬戸内の棚》で夕暮れの風景を表現しました。これは太田自身のアトリエから見える風景で、日が傾いて金色に染まった空を背景に屋島が浮かび上がっています。
本展では、これら夜や夕暮れ、夜明けを表した作品22 点を展示いたします。