1826年、ハンガリーの美しい古都ブダペストから遠からぬ小さな村ヘレンドの工房で、磁器の生産が始まりました。ヘレンドは、1851年のロンドン万国博覧会で、イギリスのヴィクトリア女王からディナーセットの注文を受けたのを機に、一躍その名をヨーロッパ中に広めました。牡丹と蝶が中国風にデザインされた文様は「ヴィクトリア文様」と呼ばれ、現在まで受け継がれています。以後、ヘレンドは、ドイツのマイセンやフランスのセーヴルと並ぶ高級磁器工房として発展を遂げ、世界的な陶磁器ブランドとしての地位を築いていきます。オーストリア・ハンガリー二重帝国のフランツ・ヨーゼフ皇帝一族のための「フランツ・ヨーゼフ」シリーズや、イギリスのウエールズ公への贈り物となった「ウエールズ」シリーズが誕生し、皇帝が皇妃エリザベートのために注文した中国風の「ゲデレー」シリーズは、皇妃の愛用品の一つとなりました。時流が大量生産へと向かう19世紀末、手作業で最高の陶磁器づくりを目指したヘレンドは、その芸術性の高さからヨーロッパの多くの王侯貴族に愛され、名実共にハンガリー芸術を代表する存在となり、今日に至っています。
本展では、ブダペスト国立工芸美術館、ヘレンド磁器美術館、ハンガリー国立博物館などが所蔵する約150件の作品により、ヘレンド約190年の歴史とその魅力を紹介します。