一九二六(大正15年)、盛岡に生まれた橋本正〈一九九七(平成9)年没、享年72〉は、戦後シベリア抑留を経て岩手美術研究所に学び、自由美術協会展で入選を重ねます。その後、個展中心の活動にはいり、一九六二(昭和37 )年、盛岡の若手画家たちのグループ「集団N 39」に参加。接着剤のボンドを使って布を固めたアンフォルメルのオブジェの連作を発表し注目されます。しかし、同グループ解散後は制作から遠ざかることになります。
70年代に再び制作を開始した橋本は、以前の抽象表現は一変し、盛岡の中心部を横断する中津川を題材に独自視点で郷土の風景を描きはじめます。彼が描く盛岡風景に不思議な愛着が湧き、忘れられない景色となった方も少なくありません。抽象から具象表現へと舵を切った橋本ですが、彼のなかでは違いはなく、具象は自然を線と面に還元する抽象化であり、抽象もイメージを画面に具体化する作業で、いずれも「小宇宙の創造」であると語っています。
没後20年を迎え、大規模な回顧展となる本展では、橋本正の多様な表現世界の全貌を明らかにし、そこに裏打ちされた彼の造形思考をひも解きたいと思います。