明治のはじめ、東京の下町神田に生まれた鏑木清方は、江戸より続く市井の文化に触れながら幼少期を過ごしました。成長してからは、父が持っていた江戸の地誌や名所を紹介した『江戸名所図会』や『繪本江戸土産』を座右の書にし、そこに描かれた地を辿るほど江戸の名所旧跡に強い関心を持ちました。
そして、日本画家となった清方は、浮世絵を熱心に研究し、江戸の情緒香る美人画を描き、大正の日本画壇で高く評価されました。時代が昭和に入り、古きよき街並が戦災や急速な開発により失われていく中、清方が思いを込めて描いたのは、江戸そして明治の下町の風景でした。
本特別展では、江戸の面影を残していた明治の東京、その佇まいを風情豊かに描いた作品を中心にご紹介いたします。