香取秀真は、少年期を佐倉市で過ごし、昭和28年に文化勲章を受章した本市ゆかりの金工作家です。秀真の活躍した大正から昭和初期の工芸界は、若い作家たちが欧米から次々と流入する芸術思潮に影響を受け、日本の伝統様式が忘れ去られていくという変革の時期でした。その中で秀真は、伝統を見直してこそ、新しい日本の工芸を生むことができるという考えをもとに紀元前の中国から日本の江戸時代に至る東洋工芸の伝統を研究し、格調高い作品を多数制作しました。
秀真は東京美術学校教授、帝室技芸員、帝国美術院会員などを歴任し、多くの弟子達を育てるとともに、自らも技術の継承につとめ、工芸の発展と工芸作家の地位向上に努力しました。しかし、これまでの美術史が、西洋の新思潮に基づく作品を評価する傾向にあるため、秀真の作品が注目されることはあまりありませんでした。しかし、伝統に裏付けされた造形は工芸界に多大な影響を残しました。
本展は、はじめての本格的な香取秀真の回顧展として、作品約100点を展観し、秀真の芸術を紹介することにより、近代工芸史における功績を見直そうとするものです。