今、世界で最も活躍の著しい写真家のひとり、ダヤニータ・シン。東京都写真美術館は総合開館20周年記念展として彼女の展覧会を開催いたします。
欧米雑誌のカメラマンとしてキャリアを開始したダヤニータ・シンですが、徐々に外国人が望むエキゾチックで混沌とした貧しいインドのステレオタイプなイメージに疑問を持ち、1990年代後半にフォトジャーナリストとしての仕事を完全に辞め、アーティストとしての活動を開始します。
ダヤニータ・シンの作品は視覚的な小説とも呼べるような、ドキュメンタリーとフィクション、夢と現実、不在と実在が綯い交ぜになったユニークな世界を展開しています。近年は移動式の「美術館」を考案し、全体を〈インドの大きな家の美術館(Museum Bhavan)〉と名付けました。詩的で美しい世界のなかに、現代写真・美術が抱える美術館システムやマーケット等の問題、現代社会におけるセクシュアリティや、格差、階級、ジェンダー、アーカイブ、情報等の様々な問題が示唆されています。また、従来の写真や写真集という概念を軽々と超えて、写真というメディアの新たな可能性を切り開いています。彼女の作品は今後の写真のあり方を考える上でも示唆に富むものです。
本展覧会は、ダヤニータ・シンの初期の代表作《マイセルフ・モナ・アハメド》(1989-2000年)、《第3の性(ポートフォリオ)》(1991-93年)、《私としての私》(1999年)から、転機となった《セント・ア・レター》(2007年)を導入部に、最新作を含むダヤニータ・シンの「美術館」を日本初公開いたします。
日本の美術館では初の個展となるダヤニータ・シンの世界をご堪能ください。