ヴォルス(本名:アルフレート=オットー=ヴォルフガング・シュルツ、1913-51)は、音楽と詩に親しみ、独学で絵を描くようになった、稀有な芸術家です。
第一次大戦後のドイツに育ち、フランスに移り住み、1930年代にまず写真家として認められました。まぶたを閉じた人物、調理前の生々しい食材などにカメラを向け、強い凝視力の写真作品を残しています。
10代から水彩画、ドローイングを制作していたヴォルスは、ドイツとフランスの戦争が始まると収容所を転々とせざるをえず、そこで描くことに没頭しました。目を閉じているうちにイメージをつかんだといわれる、蜘蛛の糸のような描線と澄んだ色彩は、ヴォルス独自の魅力を放っています。
戦後には本格的に油彩画を始め、ジャン=ポール・サルトル、ジャン・ポーランら文学者、詩人たちに認められました。彼らの著書に銅版画を寄せたのもつかのま、ヴォルスは38歳で早すぎる死を迎えています。貧窮のうちに没したヴォルスは、死の直後から「アンフォルメル」動向の先駆として注目され、日本でも1950年代から紹介されて、多くの人の心をつかみました。
近年は展覧の機会が少ないヴォルスですが、当館には彼の油彩、水彩、銅版画にわたる収蔵品があります。本展はこれらを中心に、路上の石や虫を見ながら遠く宇宙までを見通した作品世界を紹介し、ヴォルス再評価の機会といたします。