個展を軸に作品の発表を続けている画家、北村周一(1952年生まれ)。北村は中央大学法学部に学び、宇井純らによる公開自主講座「公害原論」に参加する一方で、1973年から75年頃まで新宿美術研究所に通い、麻生三郎、山口長男らの指導を受けました。大学卒業後、1982年よりかわさきIBM市民文化ギャラリーに勤務。20年以上にわたって企画・編集に携わりながら、画家としての活動を続けてきました。
「フラッグ《フェンスぎりぎり》」という奇抜な展覧会のタイトルは、2008年の個展から一貫して彼が使い続けているものです。「フラッグ」とは、“上下左右に動く二本の線が一点で交差しようとするとき、その交差の直前(一歩手前)に発現する空間”についての北村独自の呼称であり、彼の作品に通底する空間概念です。彼がつくりだす画面において、「フラッグ」はさまざまな様態に展開されています。
北村の作品には、「小石を繋ぐ」「縁側」「ライン消し」などのように、しばしば画面からは思いもよらない題名が与えられています。題名は、作品の背後に存在する彼自身の経験や思考の痕跡を示すものであり、彼にとっては作品を“名づける”ということも大きな意味をもっているのです。このことは、彼が日ごろから取り組んでいる短歌とも深く関わっています。
自らの仕事について、「ごくあたりまえのこと、基本的なこと、堂々巡りに見えることを恐れず、繰り返す」行為であると語る北村。彼の主題は、「フラッグ」のように、日常ではごくあたりまえのように目にしていながら省みられることがない、そんな事象のうちにあります。
本展は、都内の美術館では初の個展となります。北村周一の特異な仕事の一端に触れる好機です。