加賀藩前田家の歴代藩主は、優れた武人であるとともに文化にも深い関心を寄せ、殊に三代藩主前田利常から五代藩主前田綱紀に至る江戸時代の前期に「加賀文化」は確立されました。利常は大藩で外様大名という立場の前田家の存在意義を、文化政策に求めました。それは徳川家に対する独自性の主張と、徳川政権からの警戒をやわらげる目的を、理想的な形で融合するものでした。そして当時の後水尾天皇を範とすることで、京都の洗礼された文化を学び吸収しながら加賀文化の礎を築いていきました。利常は茶の湯の精神を根幹とした美術工芸品や内外の文物を、綱紀は学者大名と称されるように文春・典籍類を中心に名品を収集し、その後に続く藩主たちも文物の収集や美術工芸の発展に力を注ぎました。
その後明治維新という大きな時代変革を迎えますが、十六代前田利為は江戸時代に収集されたコレクションをさらに充実整備することで、大正十五年(一九二六)に育徳財団を設立しました。今日では公益財団法人前田育徳会として国宝二十二件・重要文化財七十七件を含むわが国有数の文化財の宝庫となっています。
本展は、北陸新幹線金沢開業を記念して、国宝十五件・重要文化財三十五件を含むかつてない規模で前田育徳会の所蔵品を中心に、加賀藩前田家ゆかりの名品を展示し、藩政時代に大輪の花を咲かせた「加賀百万石の文化」の全貌を公開することによって、広く石川県、金沢の魅力を発信するものです。