本展では、松本竣介(1912-1948)と野田英夫(1908-1939)の当館コレクションのほぼすべてを紹介いたします。昨年新しく発見され、アメリカの所蔵家より寄贈された野田英夫油彩画《ポキプシー》と、松本竣介《街》を起点に、信濃デッサン館をはじめ、個人の所蔵家による魅力的な水彩、素描作品などもあわせて展観します。
野田英夫と松本竣介は1930~40年代、都会の雑踏や建物、郊外風景、そして自身を含めた家族の像を描いた画家として、多くの共通項を持ち合わせているようにおもわれます。野田英夫は1930年代の経済恐慌のアメリカにおいて、松本竣介は1930~40年代、戦争に傾いていく日本、その戦中から敗戦後の焼け野原に至るまで、それぞれの場所で暮らしのなかの現実を直視し描きつづけました。時を経て現代、かれらの絵画と出会う私たちは、その絵画空間にさらなる哀愁を見、静かな詩に満たされるおもいをすることでしょう。明るいことそのものを希求した野田英夫と、澄み切った絵画の純度を探究しつづけた松本竣介。若きふたりの感性を再考し、かれらの絵画に生き続ける美の深層に迫ります。