人間は古くから自然と人間社会を様々な形で表現してきました。そのなかでも風景画は最も基本的なものです。日本人は四季折々に変化する美しい自然の情趣を表現する言葉を育んできましたが、その風景を描いた絵画は中国の山水画を規範にした水墨画に代表されるような心象風景を描いたものが主流であったといえましょう。古代から中世の時代には信仰に基づく彼岸風景、また物語に題材をとった名所絵などもありますが、さきの水墨画とともに、これらは実際の風景を写したというより、心のなかの観念的なイメージの風景でした。しかし、近世になると都市風景など現実の風景を基にした作品が現れてきます。とくに近世後期には西洋画法などの影響をうけ、日本の実景を写生するものも現れてきます。また、その実景への親近感は庶民の旅ブームに支えられ歌川広重などの浮世絵風景画を生んでいます。
本展ではこうした近世までの日本人の表現した風景画作品とともに近代に始まる洋画の風景画、変貌する近代日本をとらえた版画などをあわせ、現代にいたるまでの様々な風景表現とその変容を紹介します。作品は東京・京都・奈良の国立博物館および東京国立近代美術館が所蔵するもので、絵画を中心に工芸品、染織品など約50点です。これらの作品を通じて日本人の風景表現のありかたをご鑑賞ください。