近代漆工芸を代表する作家・松田権六(1896-1986)は、とりわけ蒔絵のデザインを重視したことで知られています。
彼は出生地・金沢で加賀蒔絵の基礎を身につけ、東京美術学校では各流派の技術を吸収、さらには日本画を学び、卒業後は楽浪漆器の修復など、幅広い素養と経験を身につけました。
この素養と経験により、作品は江戸時代を引き継いだ蒔絵から抜けだしていきます。ただしその道筋は、西洋に影響を受けた同時代の他の作家たちとは大きく異なりました。松田権六は日本の古典作品の豊富な研究を背景に、自然の生命感を意匠へと昇華させ、優れたデザイン感覚を作品に結実させたのです。
松田権六が作家として活動を始める大正から昭和初期は、これまで主に画家や図案家が行っていた工芸の図案製作を工芸家自身が手がけるようになり、工芸家の意識にも変化が生まれてきた時代でした。
図案製作に自ら向きあうようになったとき、近代の工芸家たちがいかに図案にとりくんだのか、本展覧会では松田権六の図案と作品を取り上げ、図案の成立過程を探ります。