繊細な色彩に焦点をあてた浜口陽三の銅版画展を開催します。
浜口陽三(1909-2000)は戦後パリに定住して本格的に銅版画制作をはじめ、ほどなく国際的に認められる芸術家となりました。浜口は黒の濃淡を細やかに表現する銅版画技法「メゾチント」を独自に習得し、色版を重ねて刷る「カラーメゾチント」へと発展させたことで知られています。
カラ―メゾチントは基本的に黄、赤、青、黒の4 つの版をつくり、それを一枚の紙に重ねて刷ることによってひとつの作品を完成させます。現在のカラー印刷に使われる発色方法と仕組みこそ同じですが、浜口が時間をかけて銅に刻む手加減によって、光と闇を併せ持つ粒子のような、柔らかい色彩のニュアンスが生まれます。
浜口作品に加え、本展では小企画として現代の二人のアーティストの作品を紹介します。実験的な作品を次々発表している写真家・濱田祐史(1979-)の「C / M / Y」シリーズは、複数の写真の色層を水の中で分解して取り出し、紙に重ね合わせることで再構築しています。研ぎ澄まされた感性のもとで瞬時にめぐり合わされた色と形はドラマを内包し、手作業の痕跡も魅力の一部となっています。
ヘルシンキ在住のテキスタイルアーティスト・浦佐和子(1986-)のドローイングは、自然の美や記憶の中の風景をテーマとし、多くがテキスタイルに使われています。質感の異なったクレヨンを2~3層塗り重ねてから、爪楊枝でひっかいて線や点を描く手法は、銅版画の彫る作業に重なるところがあります。一本一本の線に息吹があり、北欧の風や大地、そのはるかな先に続くような作品です。
色のかさなりから生まれるそれぞれの物語をどうぞご鑑賞ください。