近年、現代美術の領域では、特定の場や人を取材し、映像や写真、言葉などで表現するというスタイルで、多くの注目すべき作品が生み出されています。京都を拠点に活動する髙橋耕平(一九七七-)も、そうした作品を手掛ける美術家の一人です。本展では、二一年前に起こった阪神・淡路大震災以降の、都市の経験や記憶をテーマに、神戸・阪神間で撮影した映像や写真等から成るインスタレーションを制作、発表します。
たとえ同じ街に暮らしていても、それぞれの人の身体は街を違ったふうに経験しています。街のある造りが、ある人には便利な一方で、他の人には障害となることもあります。しかしどのような場合もそこに生きる人は、解決の糸口を求め、自らの身体で街を探り、縫うように歩を進めます。それはまるで、それぞれの身体にあわせ街を更新し続ける仮縫いのようだ、と髙橋はとらえます。
二一年前にさまざまな人がこの街で経験したことの記憶や記録。さらに現在それぞれの人がこの街をどのように経験し、歩み続けているのか。ともすれば「被災地の経験」などとひと言でくくられがちな、しかし決して誰一人同じではない個別性に注意を払いつつ、髙橋はそれらをいったん解き、自身の経験として新たに緩く縫い直し、提示します。
この展覧会が、直接的な被災経験の有無を越えて、多くの方にとり、自分とは異なる個の経験に想像を巡らせ、街で生き歩み続けることについて考える機会となれば幸いです。