「画狂人」と自称した江戸の浮世絵師・葛飾北斎(1760-1849)の生涯はまさに創作の連続でした。狩野派や唐絵など伝統的な絵画様式を学ぶ一方、西洋絵画からも刺激を受けて自らの芸術の糧として吸収し、市販品である錦絵では役者絵、美人画を手がけ、花鳥画や「冨嶽三十六景」に代表される名所絵など新たなジャンルを開拓しました。また、一点物の肉筆画や、一部の好事家向けの摺物などにも優れた作品を残し、曲亭馬琴らの読み本の挿絵、数多くの門人のために描いた絵手本も充実しています。
森羅万象を描いたと言われる北斎の画業の中でも「北斎漫画」の存在は特に際立っています。「北斎漫画」は1814(文化11)年名古屋の版元永楽屋東四郎(東壁堂)から出版され、高い人気に支えられながら1878(明治11)年までの長きにわたり全15編が刊行されました。活き活きとした人物表現、ユーモアに満ちた内容、独自の視点に基づいた構図など「北斎漫画」の魅力は当時のヨーロッパにも伝わり、彼の地のジャポニスム・ブームの起因のひとつとなりました。
本展では、世界一の質と量を誇ると評価される「北斎漫画」コレクター・浦上満氏のコレクションを収蔵する公益財団法人山形美術館から作品をお借りし、現代の絵画にも通じる「北斎漫画」の魅力を紹介いたします。あわせてジャポニスムの影響を受けたヨーロッパのガラス工芸品(ポーラ美術館所蔵)も展示し、北斎の画業を多角的に検証する機会といたします。