美術と音楽、そして文学は古代より姉妹芸術と称されてきましたが、特にロマン主義以降、美術と音楽の領域は互いに近づいて刺戟を与え合います。本展では19世紀後半、西洋美術において画家が音楽は純粋で抽象的な構成をもつという点にあこがれ、美術も音楽のように抽象化を進めていったという動きに注目します。まず「一つの主題と二つの世界」で、美術と音楽が同じテーマを表現している作品の例、たとえばラヴェルがバレエ音楽を作曲し、シャガールが版画に描いた「ダフニスとクロエ」など共通の主題をもつ美術作品と音楽作品を比較します。続いて「音楽のある情景」では楽奏を描いた絵画からそこに響く音へと思いを馳せます。さらに、二つの世界の相互へのまなざしを追い、「音楽から美術へ」として、楽曲から構想を得た絵画や音楽の抽象性を規範とした、カンディンスキーやクレーに代表される色や形による抽象的な絵画、また時を同じくして日本の画家たちが試みた音楽に触発されて生み出した多彩な美術作品もご紹介します。そして戦後の展開からはモダン・タイポグラフィが花ひらいた音楽会のポスターなどから戦後の新しい表現による「音楽への誘い」をご覧頂きます。
さらに20世紀の半ばに登場したイメージを楽譜として読む図形楽譜が登場します。このような二つの領域の越境は、「音の像・かたちの響き」として紹介する、現代美術の作家たちの音や音楽をとりこむ新しい試みへとつながっています。
これらの美術作品と、関連する音楽を併せてお聴きいただきながら、美術と音楽の出会い・共鳴・対照をお楽しみ下さい。