前田真三(まえだ・しんぞう 1922-1998)は、1960年代、信州や奥三河をはじめとする、日本の原風景ともいえる里山の景観のほか、樹木や水などにまつわる各地の風景を写真作品として発表し、1970年代以降は北海道・美瑛町の丘陵地帯を主要なモチーフに加えて、数々の代表作を遺しました。
前田の作品では、撮られた風景自体の美しさを生かしつつ、造形的な構図と色彩をもとに画面が一貫してつくり上げられており、そこには絵画にも通じる美が表されています。撮影の対象は、自然の姿だけではなく、農耕や林業など人が自然と関わって生まれた景観の中にも数多く含まれています。そうした風景の中に美しさを見出す視線と、画面に美を生む創造力が融合した前田の作品は、まさしく日本の風景の原形を体現しています。それらは、私たちが暮らす国・日本の美を再発見するきっかけとなるに違いありません。
合わせて本展では、前田真三の写真に見られる風景の造形性をテーマに、1980年代から現在にいたるまでの、9名の現代日本の写真家による風景写真を展示します。独自の視点と手法で表されるそれぞれの作品は、各々の風景観や写真観を示しつつ、画面にはたしかな造形性を感じ取ることができます。そして、その多彩な風景の姿は、私たちが普段接しながら見過ごしている世界の美しさを気付かせ、風景に対する新たな視点を観る者にもたらしてくれるでしょう。