上村一夫(1940~86)は、67年にデビューしてから生涯を通して、男と女の織りなす、移ろいやすい合いのさまざまな形を、独特の官能をたたえた流麗な描線と斬新な表現法で描きつづけ、“昭和の絵師”と称され、このジャンルで追随を許すことのない稀代の漫画家です。特に、72年から『週刊漫画アクション』(双葉社)に連載された「同棲時代」は、OL・今日子と無名のイラストレーター・次郎の“同姓”生活を軸に、男女の愛の美しさと強さ、はかなさ、残酷さといった諸相を描き出し、当時の若者風俗に多大な影響を及ぼしました。
今回川崎市市民ミュージアムでは、この「同棲時代」の他、自伝的色合いの濃い「関東平野」(76『ヤングコミック』連載)の原画や、70年代を代表する青年コミック誌『ヤングコミック』(少年画報社)の表紙を飾った“現代女性シリーズ”のカラーイラスト原画をはじめ、広告会社時代の仕事、珍しいデビュー作掲載雑誌から、彼が死の直前に残していた、知られざる女性像のイラスト原画と下描きにいたるまでを公開。また、青年向けコミックの隆盛期を彩った数々の雑誌連載作品をも紹介することで、20年近い画業を振り返ります。