染織家・佐伯和子は、“染める”+“織る”に加え、“巻く”、“縫う”という行為を足し、常に色と質感にこだわりながら、自身のテキスタイルの可能性を広げて来ました。1980年代の東洋紡本社に始まり、虎ノ門三井ビル、台湾の新荘副都心合同庁舎、ヒルトン東京ベイなど、国内外のホテルや病院を含め、手掛けたタピストリーはゆうに150件を超えます。2000年代に入り、平面から立体へと制作スタイルを移行した先に誕生したのが、2012年に発表したインスタレーション《糸の葉》。
有機的な美を持つ《糸の葉》シリーズは、佐伯が公共の場にふさわしいイメージを課して来た、これまでのタピストリーとは性質が異なります。観る側に意図を感じさせることなく、ただ自然に生を受けたかのように空間を静かに支配します。
佐伯は、独自の技法でチュールの布の上に糸を縫いこみ、一枚一枚表情の違う糸の葉を生み出しました。今回、《糸の葉…落水》(2016)に用いられた糸の葉は五千枚…。《糸の葉…BONBORI》(2016)、《糸の葉…切通し》(2016)など、本展に出品される《糸の葉》シリーズ全点を合わせると一万五千枚を要します。
《糸の葉》の名の由来は、言の葉…。ふと気づいた自然の美しさに眼を奪われるように、《糸の葉》が支配する空間に迷い込み、見たことのない景色に出逢ってほしい。そしてあなただけに聞こえる、糸の葉が語る言葉を聞き取っていただけることを願っています。