「この男は色彩を持っている」。南仏・ニースの画廊に預けられていた日本人画家の作品を目にした一人の巨匠が発した称賛の言葉です。巨匠の名は20世紀を代表する偉大な芸術家、アンリ・マティス。そして日本人画家は滞仏6年目となる青山義雄(あおやま・よしお 1894~1996)。1926年の冬から春にかけての出来事でした。これを伝え聞いた青山は同年の春先、先方を煩わせることに躊躇しつつもマティスを訪問し、師弟の交わりが始まりました。師は青山が既に持っている色彩を大切にするように言い、手を回せば裏側に届くようなデッサンをするよう繰り返し説いたといいます。
以降、二人の親交は1954年のマティスの死まで続きました。
青山義雄歿後20年にあたり、最晩年の10年を過ごした茅ヶ崎の地で開催する今回の展覧会では、《田園の裸の人々》(1931年)を始めとする初期作品のほか、全国の青山作品コレクターが愛蔵する珠玉の名品を中心に約70点を展示、その大部分が初公開の作品となります。会場を見渡せば、マティスが絶賛した「色彩」が晩年に至るまで色あせることなく画面の中にみずみずしく息づいていることがわかります。
巨匠マティスに見いだされ、その薫陶を受けてきらめくような作品を生みだし続けた青山義雄の芸術世界をご堪能ください。