私達の体験やその記憶は個人的なもので、厳密には他者と共有できるものとは言えません。しかし、例えば田畑の風景や木漏れ日に安らぎを感じたり、子供が遊ぶ姿を微笑ましく思ったり、笛の音に哀愁を掻き立てられたりと、何らかの物事から感じる感覚や感情は、個人的なものでありながらも時に国籍や世代を超えて分かち合えることがあります。芸術作品においても、何百年も前の絵画や音楽が現在でも人々の感情を揺さぶっているという事実は、そこに遠い時間の隔たりを経てもなお人間に共通するある感覚=普遍性が存在するからであると言えます。
青森公立大学国際芸術センター青森[ACAC]には国内外からアーティストが訪れますが、彼らは国の違いは勿論のこと、同じ国内であっても青森の気候や地形に少なからず驚きを感じるようです。そして地域の歴史や文化、風景など様々な物事に関心を寄せ作品に取り入れるアーティストもいます。
本展では、上村洋一、千葉奈穂子、ヨーグ・オベルグフェルの3名のアーティストが地域の特性を作品に取り入れ滞在制作を行い新作を発表します。音と視覚の関係を探り作品とする上村洋一は、青森ゆかりの作家が青森県内で描いた絵画作品と音を組み合わせた作品を展示します。千葉奈穂子は、サグリ(裂織)など青森の民俗資料と現在の風景を重ね合わせた写真作品を制作します。ヨーグ・オベルグフェルは2013年秋にもACACに滞在経験があり、その時に始めた青森の作業小屋の作品を展開させ発表します。また、上村と千葉は青森市教育委員会の協力の下、青森市所蔵の絵画や民俗資料と自身の作品を組み合わせて展示します。
アーティストは三人三様の興味と表現手段を用いて青森各地でのリサーチを元に制作しますが、それぞれが共通して目指すものは、いわゆる「青森らしさ」ではありません。国、地域や時代を超え共通する自然や人間の存在の一端を、青森の資源を用いて表現しようとするものです。青森固有の特性から見出される普遍の価値をどうぞお楽しみください。