人類の歴史の中で、人々が花や植物を見る目はどのように変化してきたのでしょうか。
西洋でギリシア時代以降、薬草の効能を伝えるために描かれるようになった植物図は、植物学の発達とともに、実物を仔細に観察することで、さらに詳しく正確な描写へと変わっていきます。同時に、花の美しさやその形象の神秘への関心が高まると、裕福な人々は庭園を築き、競って他国からも貴重な植物を入手、栽培し、画家たちにその姿を描かせるようになりました。こうして17世紀以降、科学と美を兼ね備えた、宝石のような豪華な花の図譜が次々と誕生してきたのです。
ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ(1759~1840)はその歴史の中で、最も人気のある画家の一人です。王妃マリー・アントワネット付きの宮廷画家となり、ナポレオン妃ジョゼフィーヌが蒐集したバラを描いたことで知られるこの画家は、描いた花々の優美さから「花のラファエロ」と称えられました。
『美花選』は、ルドゥーテが描いた様々な種類の花や果実144点を、優れた銅版技術によって出版した植物図譜です。この展覧会では『美花選』全点を一堂に展示し、あわせて17世紀から現代にいたるヨーロッパで制作された、精緻な美しさに満ちた植物画の数々をご紹介します。ぜひ群馬県立近代美術館でボタニカル・アートの魅力を存分にお楽しみください。