わたしは自分のことを, ロマンティックな象徴主義者だと思っています。
―サイ・トゥオンブリー
17世紀のパラッツォ, 大理石のテーブルに置かれたキャベツや朽ちてゆく花, 制作途中の絵や画材が散るアトリエ, 穏やかなティレニア海の眺め。サイ・トゥオンブリーが被写体とするのは, 彼の日常を象るモノや風景です。淡い光のなかに現れる光景は, 現実の世界を写しながら, 記憶の底に沈む映像のようにおぼろげで, 見る者の憧憬を誘います。写真のなかの像は, 色と形がまざりあい, 実態が曖昧になることで, チューリップがローマ彫刻へ, 静物が風景へと軽やかに姿を変え, それを見るわれわれの視覚を, より拡がりのある地平へと解放します。
本展は, 20世紀を代表する芸術家サイ・トゥオンブリー(1928-2011)が, 1951年から没するまで60年間にわたり撮りためた写真作品のなかから100点を, ニコラ・デル・ロッショ財団, ニコラ・デル・ロッショ・アーカイブの全面協力を得て紹介する国内待望の展覧会です。併せて絵画3点, 彫刻4点, ドローイング4点, 版画18点を展示し, 異なるメディアを往還したトゥオンブリーの作品に通底する眼差しを, 写真を介して取り結びます。