フランス・パリ生まれの画家、ロベール・クートラス(1930-1985)。当時「現代のユトリロ」、「第二のベルナール・ビュフェ」として売り出されたこの画家は、流行に左右される美術界での活動に苦しみ、画廊を離れ困窮の中で制作することを選びます。画家がその生涯をかけて描いたのは、小さな紙片を独自の神話のイメージや抽象的な模様で彩ったカルト、人間と動物の間のような生物が佇む静謐なグアッシュといった、一見ユーモラスな中に静かな悲しみを湛えた作品でした。画家を捉えていたのは華やかな美術界の流行よりもむしろ、石工として働いた青年時代に育まれた中世の職人世界への憧憬、パリの街角に暮らす人々や動物たちの生活、古きフランス人の精神が宿る民衆芸術といった、長い時間が醸成したものだったのです。2015年に没後30年を迎え、フランス・日本で続く回顧展により再評価の流れにあるクートラス作品。本展ではこの流れを受けながらも、リヨン時代の初期油絵から制作の様子が伝わる資料まで、未公開のものも含む多彩な作品を構成します。深い部分で私たちをとらえ続けるクートラスの創造世界をご覧ください。