印象派を代表する風景画家アルフレッド・シスレー(Alfred Sisley / 1839-1899年)は、生涯を通してイル=ド=フランスの静謐な風景を描き続けました。彼の作品は、他の印象派の画家と同様、日本国内にも多く所蔵されています。日本における印象派コレクションの周知が広く望まれているという背景を踏まえ、この度のシスレー展では貴重な国内コレクション約20点を中心にシスレーの画業を紹介します。
本展では、シスレーの印象主義的作風が顕著になる1870年代から、パリ近郊の村モレ=シュル=ロワンに居を構えた最晩年の1890年代までを回顧します。この間、シスレーはパリを離れ、まるでセーヌ川を追いかけるように郊外の町を転々としました。彼の描く風景に多く登場するセーヌ川とその支流は、ゆるやかな流れを湛えるばかりでなく、季節ごとの表情を見せています。その情景は私たちに豊かな自然のイメージを与えますが、実はこの川の流れも19世紀の近代化、つまりテクノロジーによって作り上げられたものでした。シスレーの描いた穏やかな川辺風景は、技術の近代化によって誕生したとも言えるのです。
また、シスレーによって揺るぎないものとなった印象主義的風景画の典型は、日本の画家にも影響を与えています。シスレーの風景画を知ることで、洋画における風景画のスタイルが確立されたと言えるかもしれません。その影響関係は、模写やモチーフ、構図などのエッセンスの借用という形で表われています。
このようにシスレーの画業を、「テクノロジーと描かれた河川」そして「シスレーの日本における影響」という2つの視点を交えて見つめます。美しく穏やかなシスレーの景色を、お楽しみください。