フォッグ美術館は、アメリカのハーヴァード大学に付属する美術館のひとつですが、西欧の近代絵画に関しては世界でも有数の内容を誇っています。そしてその一翼を担っているのが、今回公開されるウィンスロップ・コレクションです。これは、実業家グレンヴィル・L.ウィンスロップ氏(1864-1943)が寄贈した3700点にも及ぶコレクションで、中世から近代までの西洋絵画のみならず、中国の装飾品なども含んでいます。
このウィンスロップ・コレクションは、これまで館外に貸し出されることはありませんでしたが、建物の修復を機に、今回西洋絵画の主要部分が国立西洋美術館を皮切りに、ロンドンのナショナル・ギャラリー、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ワシントンのナショナル・ギャラリーなどを初めて巡回することになりました。
ウィンスロップ・コレクションは、特にバーン=ジョーンズやモローなど、写実主義や印象派とは一線を画す近代画家たちの作品が多いことで知られており、東京展では、こうしたコレクションの性質と展覧会としてのまとまりに特に配慮し、フォッグ美術館でも滅多に展示されない水彩画の優品を含む86点を選びました。出品作品は、イギリスのブレイク、ロセッティ、バーン=ジョーンズ、ワッツ、ビアズリー、フランスのアングル、ドラクロワ、ジェリコー、モロー、ピュヴィ・ド・シャヴァンヌといった画家たちの絵画です。
展覧会は、古典古代やオリエントの世界に対する西洋の憧憬、聖なるものの超越性とその表現、魅惑する女性と人類の現在、人物や風景に付与される中傷的な概念など4つのセクションに分けられています。現実のイメージと夢想のイメージとのあわいに形成される、西欧近代の欲望や夢や恐れを反映した「想像の系譜」を感じとっていただければと思います。