松谷武判(まつたに・たけさだ)は1937年大阪市に生まれ、のち西宮市に移ります。病気療養のため通常の進学や就職がままならなかった松谷は、西宮市展日本画部への入選を皮切りに、美術家としての道を歩み始めます。そして、近年国際的な再評価が進む関西の前衛美術グループ、具体美術協会に参加。リーダーの吉原治良の薫陶を受け、ボンドを用いたレリーフ状の絵画作品で頭角を現します。
1966年には毎日美術コンクールでグランプリを受賞、フランス政府給費留学生として渡仏します。翌年からパリでS・W・ヘイターの版画工房アトリエ17に学び、数々の国際版画展で受賞。しかし自己の芸術を再び見つめ直した松谷は、長大なロール紙に鉛筆の線を一本一本描き重ねていくドローイングへと至ります。今日では、ボンドのふくらみを鉛筆の黒で塗りつぶしていく手法が、美術家・松谷武判の代名詞ともなっています。
松谷が、西宮とパリという二つの拠点を往復しながら続けてきた制作活動は稀有なものであり、それがきわめて独創的な作品を生み出す礎を築いたと言えるかもしれません。本展では、初期の日本画時代から、独自の表現を模索した具体時代、ヨーロッパでの地歩を築いた版画時代、黒の絵画と新作のインスタレーションまでを網羅し、洋の東西を超えて芸術の本質を見つめ続ける、松谷武判の創作の軌跡を紹介します。