ロバート・ハインデル(1938-2005)は、英国ロイヤルバレエ団をはじめとする欧米の著名なバレエ団のレッスン風景を観察し、ダンサーを描き続けたアメリカの画家です。彼はバレエ以外の身体芸術にも広く目を向け、「キャッツ」「オペラ座の怪人」といったミュージカルやコンテンポラリーダンス、また1992年に初来日してからは日本の伝統舞台芸術である能と歌舞伎の作品も制作しました。
ハインデルは、華やかな舞台の場面ではなく、真摯にレッスンに打ち込むダンサーたちの姿を描きました。それは、重圧の中で苦悩し葛藤する人間の生 (なま) の姿ともいえるでしょう。身体芸術のもつ躍動感や緊張感を的確に表現するのみならず、その中にダンサーたちの揺れ動く心情をも表現したハインデルの絵画は、人間の根源的な美を描いていると言っても過言ではありません。ダンサーを描くことが目的だったのではなく、ハインデルの目指す美がダンサーの中にあったのです。
本展は画家の没後10年を記念したもので、日本初公開となる貴重なイラストレーションのほか、ファインアーティストに転身して描いた初期のバレエ作品から晩年の作品まで、100余点の油彩・素描の原画でハインデル芸術の全貌をご紹介します。“現代のドガ”と評されるロバート・ハインデルの世界をどうぞお楽しみください。