1923年の関東大震災で瓦礫の山と化した東京は、道路の拡充、公園、橋梁の建設などの大規模なインフラ整備を経て、昭和初め、鉄とコンクリートによるモダン都市として生まれ変わりました。復興した都市の姿に、敏感に反応したのは版画家たちでした。1920年代以降、自画自刻自摺による創作版画は、版画誌が相次いで創刊され、帝展にまで発表の場が広がるなど活況を呈します。なかでも独創的な作品を発表していた恩地孝四郎、川上澄生、平塚運一ら卓上社のメンバーは、ビルが林立し、モダンガールが闊歩する新しい都市の表情を、享楽的な時代の空気ごと、連作《新東京百景》に刻みました。小泉癸巳男もまた、1932年に35区に拡大した大東京を、隅々まで《昭和大東京百図絵》にとどめています。
このたびの展覧会では、版画家の個性が光るこれらの連作を通し、東京駅を起点に、丸の内から銀座、新宿のデパート街、造形美を誇る隅田川の橋、上野の美術館、下町の工場地帯まで、昭和初めの東京めぐりをお楽しみください。