岡本太郎はパリに滞在した1930年代から壁画を描きたいと考え、大きな絵を描いていたといいます。個人に所有されるのではない、大画面の壁画を制作し「パブリックな場所で自分の問題をぶつけ、大衆と対決したい」という思いをもっていました。(※)戦後、芸術活動を再開したものの、大きなキャンバスを買う余裕がなかった時代には、キャンバスをはぎ合わせて大きな絵を制作したというエピソードもあります。岡本にとって、壁画の制作はとても重要な意味を持っていました。
1956年に完成した旧東京都庁舎に、丹下健三の依頼で、岡本は陶板の壁画を6点制作しました。現在、都庁舎の壁画は残っていませんが、壁画の制作に平行して描かれた油彩作品《建設》と旧都庁舎が解体された1991年に再制作された《月の壁》を展示します。
また、1958年に期間限定で神田駅に設置された3点組の壁画は、どれも、電車を利用して通勤やレクリエーションに向かう人々が集まる「駅」という空間の役割や機能にそったテーマで制作されました。また、色彩が明るく光沢があり、油彩などより耐久性のある素材のタイルを使用している点も注目されます。今回はそのうちの《遊ぶ》と《駈ける》を展示します。
そして、企画展「竹田鎮三郎―メキシコに架けたアートの橋」展にちなみ、現在、渋谷に設置されている大壁画《明日の神話》の最終下絵を展示します。竹田はメキシコで岡本と交流を深め、《明日の神話》の制作を手伝いました。《明日の神話》は岡本が手掛けた壁画のなかでも最大のものです。また、竹田から岡本へ宛てた書簡など初公開の資料やドローイングなど展示し、岡本が《明日の神話》に託したメッセージを紹介します。
岡本は誰もが芸術に触れられることを理想としていました。美術館にわざわざ見に行くのではなく、何気ない街の風景のなかにこそ芸術があるよう願い、作品が設置される場所のもつ意味や、作品の前を行き交う大勢のひとを想像しながら壁画を制作しました。
本展への多くの方のご来館をお待ちしております。