山陰を代表する古刹鰐淵寺は、六世紀末、推古天皇の時代に智春上人によって開かれたと伝えます。
上人が誤って滝壺に落とした仏具を、鰐がくわえて返したという伝説が鰐淵の由来です。平安時代には後白河法皇の撰によって成立した『梁塵秘抄』 (りょうじんひしょう) に、聖 (ひじり) の住む所として「出雲の鰐淵や日の御碕」とうたわれ、聖地として知られていました。山岳修行の場だった鰐淵寺は、比叡山との関係が深まるとともに天台寺院となります。一方、出雲大社で行われる仏事を鰐淵寺の僧が務めるなど、同社と密接な関係を保ちました。こうした歴史を証明する古代の金銅仏、天台密教の像や仏具、懸仏、神像、古文書等が数多く伝来しています。
平成二十三年に京都国立博物館と島根県立古代出雲歴史博物館の共催で開催した特別展覧会「大出雲展」、さらに科学研究費の助成を受けた「出雲鰐淵寺の歴史的・総合的研究―日本宗教の歴史的・構造的特質の解明のために―」の調査研究により見出すことのできた宝物を展示し、出雲の地の古代から中世にいたる信仰、文化をご覧いただくために、この特別展観を企画しました。
三十三年に一度の本尊のご開帳が平成二十七年に行われます。出雲第一の寺院である鰐淵寺を訪れてみてはいかがでしょうか。