昭和20年、戦災に遭いふるさと奈良に引き揚げた入江は、その年の12月にある噂を耳にします。それは、「奈良の仏像などの文化財が戦利品として持ち去られる」というものでした。戦争によって刻まれた心の傷を、奈良の古寺を巡りみ仏に祈ることで埋めていった入江にとっていたたまれない出来事でした。結局、このことは単なる噂であったことが判明しますが、入江が大和路の写真家として再出発するきっかけとなったのです。
最初に手掛けたのが、大和の仏像です。当初は、仏像を優れた仏教彫刻としてとらえ、その美しいお姿の表現に重きを置いていました。しかし、撮り続けるうちに仏像の持つ精神性(祈りのこころ)に引き込まれていきます。形として見えないものを、何とか写し出すことはできないか、お堂でみ仏に祈ったときの感動を表現できないか、と考えるようになります。
展覧会では、「こころの中で合掌しながらシャッターを切った」と、入江が語る仏像作品を中心に、古寺風景をあわせて展示します。厳しくも優しい仏像の眼差しやこころの安らぎを感じとって下さい。