公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第233回として、「今、自然の中で 菊池元男展」を開催いたします。
洋画家・菊池元男さんは昭和25年日立市に生まれました。専修学校を卒業後、日立市の消防本部に勤務します。消防の仕事では時に凄惨な現場に立ち会うこともあり常に緊張の連続でした。そうした精神的な抑圧から気持ちを切り替える為に、何か創造的な行為の必要を感じて、仕事の合間に絵を描くようになります。
当初独学で描いていた菊池さんは59年に磯崎俊光さん(日展会員、東光会副理事長、水戸市在住)と出会います。磯崎さんから構図の取り方、モチーフの見方、描く姿勢、絵画の基本中の基本を徹底的に学びました。東光展と日展に初入選を果たし、以後同展を発表の場としています。
モチーフとして選んだ漁網は、いつも海の見える環境で育ってきた菊池さんにとって懐かしく身近に感じられるものでした。当初は一枚の網ですら描き出すのに苦労しましたが、手を抜くことなく一筆ずつ細かい目を描写していくうちに、網の持つ表情の面白さにモチーフとしての魅力を感じはじめます。自分だけの網を描くことを求めて、いつしか網は幾重にも重ねられ、海鮮類、堤防等も組み合わせるようになりました。こうして海の周辺のモチーフを展開して約10年間描き続けました。
近年、描くモチーフが大胆にもオーストラリアの風景へと変化します。旅先で出会った熱帯雨林の緑に心を奪われたのがそのきっかけでした。「自身が描く対象に感動していなければ見る人にも感動は伝わらない」と菊池さんは言います。現地を訪れては一人林の中に身を置き、自然が作り出す植物の配置、その場所の湿度、匂い、光と影、葉擦れの音、烏の声、動物の気配などを体感して身体に記憶させて描きます。何百とある緑の絵具の中から作り出す、他の誰でもない自身が描く緑、自身が描き得る絵画を探求しています。
今展では、前期には漁網をモチーフとした作品を、後期は熱帯雨林の風景を中心に描いた優品18点を二期に分けて展示いたします。またロビーにて菊池さんの作品制作の様子やインタビューなどを収録したビデオを放映いたします。
公益財団法人 常陽藝文センター