大地を揺るがし草木を枯らす荒ぶる魂と和歌の始祖としての繊細な美意識を兼ねもつスサノヲ。スサノヲは、天災として想起されますが、漂泊の神であり、既存のものを原点にもどし、新しい世界を開くはたらきをもっています。見落としてはならない点は、何が大事かを気づかせる喚起力と、事態を反転する起爆力、そして何よりも芸術家に霊感をあたえるその力です。
本展は、縄文時代から現代にいたるおよそ五〇〇〇年にわたり現われたスサノヲ的な表象をたどることによって日本人の深層に迫るものです。いのちの与奪を司る縄文の神のすがたは、現代の作品にも共鳴し、スサノヲの到来を予感させます。また、和歌の始祖としてのスサノヲのはたらきにもとづく文学や芸能、西行や芭蕉、円空らを通して、うたとさすらいにより成就される祈りや表現を探ります。それとともに、異界を探求した平田篤胤によって提唱された幽冥界を訪ね、その根底に介在するスサノヲと、篤胤の危機意識を考察します。さらには、いのちの文脈から鋭い文明批判を実践した田中正造、南方熊楠、時代と自身の危機をスサノヲにより乗り越えた折口信夫の生きざまを紹介し、彼らを衝き動かした清らかないかりのみなもとを探求します。
スサノヲは危機的状況下や時代の変換期にその都度、想起されてきました。時代の大きな曲り角を迎えた現代にあって、私たちの深層からスサノヲは再び語りかけてくることでしょう。