タイトル等
高谷史郎
「Topograph / frost frame Europe 1987」
会場
児玉画廊 | 東京
会期
2014-10-04~2014-11-08
休催日
日・月・祝
開催時間
11時~19時
概要
児玉画廊|東京では10月4日(土)より 11月8日(土)まで、高谷史郎個展「Topograph / frost frame Europe 1987」を下記の通り開催する運びとなりました。
今展覧会は、東京都写真美術館での個展「明るい部屋」(2013年12月10日-2014年1月26日)、児玉画廊|京都での個展「Topograph / frost frame Europe 1987」(2014年4月29日-6月14日)に引き続き開催されます。写真シリーズ「Topograph / La chambre claire」および「frost frame / Europe 1987」、光学ガラスによるナイフエッジ45度直角プリズムによって鏡面でありながら正像を映し出す「mirror type k2」、映像インスタレーション「Toposcan」を展観致します。
「Topograph / La chambre claire」は、ラインスキャンカメラを使用して撮影された写真作品のシリーズです。ラインスキャンカメラとは、スキャナーやコピー機と同じ仕組みで、空間の対象物をライン(1ピクセル幅の細い縦線)でスキャンしつつ、横方向へとその1ピクセル幅の画像を集積させることで一枚の画像を得るという装置です。通常のカメラであれば、レンズは固定されており単焦点であるため、我々の目で見る感覚に馴染んだ、消失点を基準としたパースペクティブによって遠近感と立体感のある画像が得られます。しかし、ラインスキャンカメラの場合、対象に対して常に真正面から見た1ピクセル幅の画像を継ぎ足していくので、結果として奥行きのパースペクティブ(奥にあるものが相対的に小さく狭まって見える)が画面上から失われるのです。そこに映し出されているのは、人間の目とは別種の認識方法によって捉えられたまぎれもない現実の姿なのであって、歪んだ像を結んでいるのは果たして我々の目かあるいは眼前のこの写真であるのか混乱させられます。目で見たもの=真実という過信を揺るがし、我々を取り巻く世界を何を頼りに認識すべきか静かに投げかけてきます。
「frost frame / Europe 1987」は、1987年に高谷が撮影したヨーロッパ各地の写真を使用した作品です。「Topograph / La chambre claire」とは対照的に、パースの効いた構図が意図的に取られており、対象の立体感や陰影が強調されています。そして、プリントはフロストアクリル(曇りガラス様のアクリル板)製のボックスフレームに容れられ、霞んだ記憶の様に朧な景色を映し出しています。このフロストアクリルフレームは写真面とアクリル面の距離を調整することができ、距離が開くほど画像はより淡くぼやけていき、逆に狭まるほど明瞭になります。カメラのフォーカスにも似た機能をフレームに持たせて画像をぼかして提示することで、1987年と現在の時間的と空間的な隔たりを(ノスタルジックに)暗示すると同時に、レンズを透過する光が焦点に像を結ぶためには定められた距離が必要となるというカメラ内部の光学的な現象を構造的に再帰させているかのようです。
「mirror type k2」は、自分の顔の正像を真正面から生で目にすることのできる唯一の装置です。45度直角プリズムは、文字通り45度-90度-45度の三角柱状の光学ガラスで、90度の対辺を正面とします。正面から入射した光は45度の角度のついた二辺によって二度直角に折れ曲がり、180度反転して戻ってきます。このプリズムを真正面から覗き込む時、左右が反転した鏡像とは違い、他者が自分を見るのと同じく自らの本当の正面の像を目の当たりにすることとなるのです。それは自分が持っているセルフイメージを脅かす言い表しがたい居心地の悪さがあり、自己が他者として見えるという想定外の体験は衝撃を覚えずにはおれません。そして、この作品は光学的な仕組みによって画面に像を結ぶという最もシンプルな映像的装置であり、その衝撃とともに写真や映像の本質についての考察を我々に向けて促すものです。
「Toposcan」は「Topograoh」のコンセプトを映像に置換し提示される作品です。文豪ジャン・ジュネの墓地のある海岸の丘を美しく切り取った映像で、16:9のモニター4台に跨がるパノラマを映し出します。カメラをパンニングしながら撮影し、映像は墓地を周回するように進んでいきます。ただし、単純に映像が横へと移動し流れていく訳ではありません。映像は右から左へ、あるいは左から右へとゆっくり進んでいきますが、常に映像の先頭である、最先端1ピクセルが映像のパンニングに合わせて追加されていくような印象を与えます。それは、映像の進行方向の先にある画面全体が、最先端の幅1ピクセル分の映像データを引き延ばした走査線状の画像に瞬間毎に覆われ、そこから映像を表出させていくようにプログラムされているためです。それはまるで織物のように、データから糸を紡ぎ出し、その光の糸から映像が織り上げられていくかのような視覚効果を生み出しています。映像そのものは16:9の画角をキープするため、先端に追加された1ピクセル分はその都度映像の後端の1ピクセルが置き去りにされ、映像の軌跡として凍結されていきます。つまり、4台のモニターの中で、映像を読み込んでいく先端1ピクセルの色データの走査線状の集積帯、動いている映像本体部分、そして、残された最後端1ピクセルの積層によって得られた静止画像、という三態が同時に存在し、画面は刻一刻と変化し進んでいきます。最終的に映像が4台分の幅を通過しきった段階で、画面は全て最後端1ピクセルの積層による、まるで世界が固まってしまったかのような不可思議な静止画で埋め尽くされます。それは、映像がモニター4台分の幅をパンニングするのにかけた「時間」そのものであり、そして「Topograph」と同じ原理によって「空間」そのものをスキャニングしたものでもあります。美しい断崖の墓地の緩やかな時間が景色ごと正に取り込まれてしまったかのようです。さらにその静止画像には、従来の写真には存在し得ないタイムラインが確かな痕跡となって現れており、また映像においては、1ピクセルに分断され紡がれては解かれていくあり得ない空間の姿を表出させるのです。この新たな像の在り方を前にして、人を取り巻く空間とその中に存在する時間、そしてそれらの認識について、我々がどこまで新たな視野を得られるだろうかと思索は尽きません。
高谷のこれら作品は、いずれも従来の写真(および映像)の概念とは少し違う方向性を示しているように思えます。写真と言えば、camera obscura(暗い部屋)に端を発し、文字通り暗室に光を閉じ込め、それを紙に焼き付けるという、いわば閉塞的な行為であるのに対し、高谷の作品は作家自身が言うようにcamera lucida(La chambre claire=明るい部屋)にそのコンセプトを求めた開放的な行為としての側面を強く感じさせます。camera lucidaはcamera obscuraと同じくカメラの始祖的装置でありながら、camera(部屋)の内部に像を閉じ込める装置であるcamera obscuraとは逆に、レンズとプリズムによって実像と映像を重ね合わせて見るための装置であり、像を明るみへと連れ出します。光学的な装置としてのカメラ、その表出手法としての写真や映像は、果たして暗室(obsucra)になくてはならないのか。装置をカメラ内部(black box)から表に出した「frost frame / Europe 1987」や「mirror type k2」、レンズによる収差から像を解放した「Topograph」、映像と写真の概念的な境界を取り払うかのような「Toposcan」、高谷は人間の視覚と光学的装置としてのカメラという二つの目を往き来しながら、我々の視野を開かせ、明るみへと導くのです。
イベント情報
オープニング:10月4日(土) 18時より
ホームページ
http://www.kodamagallery.com/takatani201410/
会場住所
〒108-0072
東京都港区白金3-1-15
交通案内
地下鉄白金高輪駅③出口より徒歩10分 広尾駅①出口より徒歩15分
光林寺バス停より徒歩2分
ホームページ
http://www.kodamagallery.com/
東京都港区白金3-1-15
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