明治に入り鉄道や街道が整備されると人々はより気軽に旅ができるようになり、画家たちにとって身近な風景も描く対象になりました。洋画教師・フォンタネージ(1818-1882)のもとで学んだ小山正太郎(1857-1916)は画塾・不同舎を率い、生徒たちは新たに開発された東京郊外や遠方を旅し新鮮なまなざしで風景をとらえ「道路山水」と呼ばれる写生画(道路を中心に据え両側の樹木や家屋で遠近感を示す作品)を残しました。
不同舎とも関わりがある小説家・国木田独歩 (くにきだ どっぽ)(1871-1908)の『武蔵野』(1898)に代表されるように、画家だけでなく文学者の間でも素朴な自然にロマンを見いだす新しい表現が生まれてきました。
独歩がその短い生涯を閉じた「東洋一のサナトリウム」南湖院がある湘南・茅ヶ崎もまた明治以降新たに開発された郊外です。別荘地、保養地として有名になった茅ヶ崎には「オッペケペー節」や新派劇の創作者で知られる川上音二郎(1864-1911)や画家・萬鐵五郎(1885-1927)をはじめ多くの芸術家が移り住みました。
本展では優れた日本近代洋画をコレクションする府中市美術館のご協力のもと、それまで名所絵的に描かれることが多かった江戸(東京)の風景画の主題が明治以降どのように変化したのかをたどるとともに、不同舎の代表的な画家・鹿子木孟郎 (かのこぎ たけしろう)(1874-1941)の「道路山水」を通して彼らが追求した美意識を紹介します。また茅ヶ崎ゆかりの国木田独歩や川上音二郎らの関わりを交えながら萬鐵五郎らによる茅ヶ崎や周辺の風景画を展示します。
およそ130点の作品により明治の洋画家や文学者が歩いて目にした光景を、本展のキャラクター「IPPO (いっぽ) くん」のナビゲートにより私たちも旅してみましょう。