1901年に京都で生を受けた向井潤吉は、その幼少期に千年の都を囲む風土と、ここに育まれた文化を素肌で感じ育ちました。やがて、青年となった向井は洋画に関心を寄せ、画家を志します。その素直な情熱は生涯にわたって彼の心の中に保たれ、さまざまな題材へと関心を広げさせました。
草屋根の民家という独特な画題による作品群は、向井潤吉を語るうえで欠くことのできないものですが、この展覧会では、これらとは大いに趣の異なる作品の数々をご紹介します。
1920年代の終わりに西洋美術の研究のためにルーヴル美術館で描いた古典名画の模写作品、また、1950年代にヨーロッパ各地を旅して描いた作品、そして1960年代に中国に取材した作品などを見渡しますと、その画面には向井潤吉の画家としての眼差しが隅々にまで行き届いていることを感じます。それは、向井潤吉が長年にわたって日本の風土から受けとってきた光や風、あるいは文化的背景とは異なった世界に向かって、自身の興味や関心を深めていく過程が定着しているからなのでしょう。展覧会にならぶ民家を題材とした作品と見比べていただきながら、向井潤吉の画家としての眼差しの奥深さを堪能していただければと思います。